• ウィルコラ

    スナドリネコは、日本ではアニメのキャラクターにもなっていますが、その名前からネコを想像する方が多いのではないでしょうか。漁る(すなどる)という語は、「魚などをとる」、「漁をする」、という意味で、スナドリネコはその名の通り、水辺に近い環境に生息し、魚を好んでとるネコ科の動物です。

    スナドリネコは、南・東南アジアに生息していますが、それぞれの地域での呼び名は、その地域における人々が、どのようにスナドリネコを見ているかを表しているように感じます。例えば、インドネシアでは「マングローブのネコ」、ミャンマーにおいては「ネコ漁師」と呼ばれ、大型でないネコの仲間と認識されています。一方で、バングラデシュでは地域によって異なるものの、「〇〇のトラ」といったように、トラの名前で呼ばれています。つまり、インドネシアやミャンマーにおいては、スナドリネコは、人々を襲わないネコの一種と捉えられている一方で、バングラデシュでは、トラのような生き物と捉えられていると考えられるのです。

    バングラデシュのスンダルバンスは、トラが人を襲う事例が世界でも特に多いとして知られています。そのため、バングラデシュでは、トラのような生き物とは「人を襲う・殺す獰猛な動物」を指すようです。WilCoLaが活動する地域にはトラはいませんが、村の子守歌にも「泣き止まないと、トラが食べにくるぞ」というフレーズがあるそうです。このようなイメージを持つトラと認識されるため、スナドリネコも恐怖の対象となっていると考えています。

    実際にバングラデシュの首都ダッカにある動物園の案内板には、「餌が少なくなると子供を襲う」といった誤った記述がなされています。スナドリネコが人間を襲ったという事例は知られていませんが、このような認識に基づく恐怖から、バングラデシュでは襲われる前に駆除しようとする行為が多くみられるのです。

    このように、同じ動物であっても、自分たちの生活圏にいるネコのような存在なのか、トラのような怖い存在なのか、その認識の違いは人々の行動に強く影響し、また保全の在り方を大きく左右することになります。

    バングラデシュでは、人々にまず、スナドリネコは実際には人を襲うような恐ろしい存在ではない、ということを認識してもらいたいと考えています。人の生活圏に近い湿地や河畔林に生息するスナドリネコの絶滅を回避するには、人々と共存していくことが必要だからです。このスナドリネコに対する誤解を解くために、小学校を起点とした教育活動の方法を現在模索しています。何世代にもわたって醸成されてきた認識を変えることは、大人にとっては難しいことですが、まだ柔軟な発想をもつ子供たちとの対話から、人々の認識を変える試み、そしてスナドリネコの保全の方法を一緒に考え、取り組んでいきたいと考えています。

    小学校の子供達が描いたスナドリネコの絵:上のスナドリネコはトラに近い柄で描かれている。